衝 脈(FV)

衝脈(Chong-mai)(Flush-vessel)

【経脈流注】

-奇経八脈考-

「衝脈は経脈之海を為し、また血海と云う」

「任脈と共に少腹の内側、胞中に起こる」

「(体外流注は)気衝に起こり、足陽明経・足少陰経の二経の間に沿って、腹上を巡り、横骨に至り、臍を挟みて左右五分、上行して大赫・気穴・四満・中注・肓兪・商曲・石関・陰都・通谷・幽門を歴し、胸中に至りて散ず」

「“霊枢経”曰く、衝任ともに胞中に起き、上りて背裏を巡り、経絡之海を為す(体内流注)」

「(体外流注は)腹の右側を上行し、喉にて会し、別れて唇口を絡す」

-霊枢海論第三十三-

「衝脈は十二経脈之海なり」

「その輸、上は大杼に在り、下は上下巨虚に出る」

霊枢逆順肥痩第三十八・動兪六十二-

「衝脈は五臓六腑之海なり。五臓六腑は皆衝脈に上申す」

「上に向かう脈枝は頏顙(副鼻腔)に出、諸陽に滲み、諸精を灌漑す」

「下に向かう脈枝は、一つは少陰之大絡に注ぎ、気街を出、内股を巡り、膕中(委中とも)に入り、埋伏して脛骨内側を行き、下りて内踝の後(大鐘とも)に至り別れ、もう一脈は、少陰之経に沿って三陰に滲む」

「前に向かう脈枝は伏して足甲に出、大指の間に入り、諸絡に滲み、肌肉を温むる」

 

※衝脈流注について

衝脈は気衝を中心として上前・上後(伏衝脈)・下内・下外と四方へ流れる。

《上前》:胞中~気衝~胃経・腎経間を上行~胸中に散る+(腹の右側?を上行し、喉にて会し、別れて唇口・颃颡(副鼻腔)を絡す)。

※胸中に散じて後、陽明経(多気多血)に依乗し、喉・唇口・内鼻などに絡すと思われる。

《上後》:胞中~背裏を上行し経絡之海を為す(大杼に至る?)。

《下内》:胞中~気衝~内股から足少陰経に沿って下行して太衝(踵上の三陰経の密集地帯)に至り、内踝の後(大鐘とも)から三陰経に滲潤する。

《下外》:胞中~気衝~内股~膝中(委中とも)から埋伏し胃経(上巨虚・下巨虚)へ~足甲から大指間(衝陽・太衝?)に入り、肌肉(筋肉)を温める。

※衝脈は『気街-霊枢衛気第五十二-』との関わりが深く、特に腹街・脛街は、衝脈とほぼ同義かと考えられる。

 

・左右計三十四穴

※此処では-奇経八脈考-記載の二十四穴に会陰・陰交、加えて-霊枢海論第三十三-に記載の大杼・上巨虚・下巨虚、宗穴である公孫を加え、計三十四穴とする。

※-鍼灸大成-には計二十二穴(-奇経八脈考-から会陰・陰交・気衝を含めず)

※-霊枢逆順肥痩第三十八-の記載の解釈次第では、大鐘(内踝之後)、太衝・衝陽(大指間)なども衝脈に関わるのではと思える。また-素問水熱穴論篇第六十一-にある『太衝六穴(陰谷・筑賓・三陰交・交信・復溜・太渓)』も、衝脈に係わると考えられる。一説には穴名に“衝”のつく経穴は、すべて衝脈と関わりがあるとも云われるが、そうなると中衝・少衝・天衝・衝門なども、間接的に衝脈に係わるとも考えられる。

「会陰」 「気衝」 「横骨」 「大赫」 「気穴」 「四満」 「中注」 「陰交」 「肓兪」 「商曲」 「石関」 「陰都」 「腹通谷」 「幽門」

「大抒」 「上巨虚」 「下巨虚」

『宗穴/八脈交会穴:公孫』

 

【概要】

・「衝=通・動・行(循)」。衝脈が、十二経脈全ての気血を受け、全身に通じさせる役割を持つ事から。また衝脈の本質は、「臍下腎間の動気」を五臓六腑に巡らせる事であるから。

・更に「衝=衝き上げる」の意もあり、その病状が、逆気裏急である事も顕している。

 

【主治】「逆気して裏急す」…更年期障害など

※古典には、季節や時間帯によって変化増悪する冷えのぼせ(特に衝脈の逆気は、足陽明経・足少陽経に波及する。秋冬の喉のつかえ・喘息・起座呼吸。春夏の大熱など)に対し、衝脈を多く用いている。

※奇経八脈考には、臍周囲の動気(拍動)と圧痛の位置から、病脈を診断する法が記載されている。これに拠れば、左=衝脈・右=任脈・上=足少陰経・下=足太陰となる。難経第十六難記載の、左=肝・右=肺・上=心・下=腎と併せて覚えておくと良い。

 

【症例/個人的見解】

・十二経脈(五臓六腑)之海について

諸陰経は任脈に集い、諸陽経は督脈に集う。任督は胞宮より出でて胞宮に帰る。衝脈は同じくその胞宮から起こり諸脈の衝要を為すため、『十二経脈(五臓六腑)之海』とされる。

・血海と婦人科について

経脈上に拍動部が多い事から、全身の血気の運行の動源とされる。女性では生理・妊娠に関わり、男性では体毛の分布に係わる。

女子の生理は精血を基に、気によって経・帯・胎・産・乳の全てが調整されている『女子以血為本』。天癸を迎えると、定期的な子宮出血が起こる。その周期は月齢(約25~37日)に近く、故に月経と称される。(月次・月信・月候・月水とも)

妊娠に伴い、胎児発育の為、任・督・衝脈の流れが女子胞に集中する。妊娠初期は、身体がその変化に適応しきれず、飽和した気血を気衝を通じて胃経へ流す為、胃気上逆を生じ、”悪阻”へと発展すると考えられる。通常は身体の適応に伴い気血の流れが安定、16週目くらいには消失する。

衝脈中の精血は、平時は経血として落ち、妊娠中は胎児を養育し、産後は乳となる。

・二次性徴と衝脈について

男性は”血余気不足”の為、衝脈全体に血が行き渡るので体毛が濃く、女性は”気余血不足”である為、衝脈上部まで血が行き届かず、故に髭が生えない。…霊枢五音五味第六十五

・衝脈の機能はいずれも性徴・発育・老衰に関わる事柄である事を考えると、生殖機能(臍下腎間の動気=命門)に深く関与すると考えられる。

・「腎為衝任脈之本」「病在衝任二脈、責之肝腎脾三経」「衝脈隷於陽明」という。衝脈の病には足三陰経(特に腎)+足陽明経を中心に治療すること。

・痿証(肢体が萎弱して運動不利を生じる一連の病症)の治療には、陽明経を主に、衝脈・帯脈・督脈との関係を考慮しながら配穴すると良い。

・痴呆の治療には、衝脈と督脈を併せて考慮すると良い。

・頏顙(副鼻腔?)を通るとされる経絡は、本経と、足厥陰経・衝脈の三条。耳管の不通によるような耳鳴、気圧差による頭痛などは、この三経を中心に考えるべきか?

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